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読書のすすめ

1970年代の大ベストセラー「知的生活の方法」に、じんわりとおもしろさを感じたので紹介します。
僕をはじめ、この本は多くの人々の読書習慣に影響を与えたようです。

知的生活の方法 (講談社現代新書 436)

知的生活の方法 (講談社現代新書 436)

本による対話

知的生活の流れは、貧富、身分、性別、時代のすべての枠を超えて、それを理解するものだけのあいだを、外からは見えないで、あたかも雪の下水のごとくにひそやかに流れてくるのである。

本の大きな魅力のひとつは、時代も、場所も、つながりも飛び超えて、筆者と対話できることです。古い本はより強く実感できます。

自分をごまかさない精神、「わからない」に耐える

ごまかす、ズルをする、という精神ではじめたものには上達しないものだというのは鉄則であるように思う。

ごまかしたりズルするというところまではいかなくても、よくわからないのにわかったふりをする子供は進歩がとまるのである。

私は、「わからない」と言うことを恐れなくなった。大学の英文科ではむずかしい話をわかったように偉そうに言うのが普通であった。しかし私は英詩の大部分は不自然でわからないと公言して憚らなかった。「ぞくぞくするほどわからなければ、わからないのだ」と言う原則に忠実だったからである。だいいち、日本人の大学生が、田舎の高校あたりからぽっと出てきて、シェリーの詩を原文で読んでほんとうにおもしろいなどということはあるわけがないのである。

表面上の理解だけでわかった気になって、なんとなくやり過ごしたり、満足したりすることがありますよね? 筆者は「ぞくぞくするほどわからなければ、わかっていることにならないのだ」と断じています。肝に命じておきたい1文です。わからないことを恥じたり、怖がったりしてはいけません。

知的オルガスムスを求めて

筆者は英語の原書のおもしろさをなかなか感じられないことから、こんなことを書いています。

この不全感を、適切かどうかわからないが、私はときに、女性のオルガスムスにたとえてみたい気になる。もちろん私は女性になったことはないからものの本によって知るだけだが、そのときの恍惚感は言語に絶するものであって、はなはだしい場合は、一週間、十日とその余韻が続くともいう。

筆者は原書を「ぞくぞくするほど」わかりたいために、アメリカに移住し、原書を読みまくります。その間、ポルノ小説にハマったりもします。おもしろい人。
そして、ついに「マジョリー・モーニングスター」という作品で、知的オルガスムスを味わいます。
僕も原書でこんな境地に到達してみたいものです。

You are what you read.

西洋の諺に、「あなたの友人を示せ、そうすれば、あなたの人物を当ててみせよう」というのがあるが、私はこう言いたい、「あなたの蔵書を示せ、そうすればあなたの人物を当ててみせよう」と。

以前のエントリ「Kindle Paperwhiteを半年使ってみたレビュー」でも書いた”You are what you read.”というセンテンスがここでも出てきました。このような、自分の知識や経験がつながっていく「ぐるぐる」感が好きです。人や言葉との、出会いと繋がりを大切にしています。

膨大なインプットが生むもの

ゲゲゲの鬼太郎」の産みの親の水木しげる氏は、25年かけて一億枚ぐらいの写真やスクラップを集めたという。それが変死体とか、残忍な殺人現場とか、留置場とか、刑務所とか、薄気味悪いところをかくときの資料なのである。現実は劇画よりも奇々怪々で凄まじく、それを見せられた人は、水木邸を後にしたときはそれほど思わなかったのに、しばらくたったら震えがきて、2,3日のあいだ、悪夢を見続けたそうである。

水鳥は絶え間なく水面の下で足を動かしているから進むのだ。息の長い知的活動をしている人は、たえずこうした「空間」に関係してくる方面で努力しているに違いないのである。

ゲゲゲの鬼太郎の裏側には、こんな努力があったんですね。良質のアウトプットは、膨大なインプットに基づいていることを実感したエピソードです。

ハマトンの見切り法

知的生活の時間に関するこの「見切り」についてさらに適切な忠告をしているのは、ハマトンというイギリス人である。彼の「知的生活(インテレクチュアル・ライフ」と言う本。

ハマトンは時間を空費させるもっとも大きな敵は、下手な勉強だと言っている。

時間をいかにも無駄に使っているように思われるぶんには大した問題にはならない。たとえば友達と一晩飲んだとか、ヘボ将棋をしたとかいうのは、まったく無駄な時間のようであるが、気晴らしや気分転換にもなっているので、大したことはない。危険なのはまさに勉強なのだ。

友達と飲んだり、将棋をさすのとは桁違いに大きな時間とエネルギーの空費である。こういうのが、もっとも危険だということになる。

この「下手な勉強」は、気をつけないとまんまと陥ってしまいます。真面目な人ほど陥りやすそうです。
前職の会社では、やたらに資格取得が推奨されていました。僕も昔、一時的な報奨金と出世切符を目当てに、かなりの時間をむやみやたらと資格の勉強に費やしていました。もちろん全てが無駄だったとは思っていませんが。
同じ筆者が翻訳しているハマトンの「知的生活」も読んでみよう。

知的生活 (講談社学術文庫)

知的生活 (講談社学術文庫)

終わりに

本に対するスタンスが変わり、読んだあと、無性に本を手にとりなくなりました。
本が好きな方は沢山の共感ポイントを発見し、より本が好きになるでしょう。
本にあまり馴染みがない方は本に価値を見いだすきっかけになるでしょう。
引退後のゆっくりとした知的生活を想像しながら読んでみてはいかがでしょうか。