『ネット・バカ』を読んだ
ニコラス・G・カーの『ネット・バカ』を読みました。
最近、歩くときもスマホから目が離せない人たちをよく見かけるようになりましたが、そんな状況に刺さるタイトルですね。
原題は「The Shallows(浅瀬)」。ネットに依存することによって、われわれが陥る思考状態のメタファーでしょう。本書の中にもこんな記述があります。
著者はテクノロジーを中心とした社会的、文化的、経済的問題を論じる著述家で、著書に『ITにお金を使うのは、もうおやめなさい』、『クラウド化する世界』などがあります。
『ITにお金を使うのは、もうおやめなさい』は、その基となる論文がハーバード・ビジネス・レビュー誌に発表されるやいなや世界中の新聞・ビジネス誌・IT専門誌で取り上げられて、徹底的に議論され話題となった作品です。発表当時、著者はIT業界から白い目で見られたそうです。
いずれの本もIT業界に関わる方(特にエンタープライズ)であれば、一読しておいて損はない本です。
ちなみに、その論文のタイトルは「IT Doesn't Matter」。このブログの副題と一緒ですが、偶然です。ぼくはPHISHの歌詞から付けました。
本書は現在のネット社会を糾弾し、ネットのない社会に回帰せよと単純に主張するものではありません。著者自身も、もう後戻りはできないといっています。
「 第1章 HALとわたし」より
スタンリー・キューブリックの『2001年宇宙の旅』を観たことはありますか?
そこに登場するスーパーコンピュータHAL。暴走し、最終的には人工知能を制御する記憶回路を切断されます。映画を観たことがある方は、このセリフで映画の場面を思い出すのではないでしょうか。
「デイヴ、やめろ。やめてくれないか。やまえろ、デイヴ。やめてください」
「デイヴ、気が遠くなってきたよ。わかるんだ。ぼくにはわかるんだ」
著者はネットに依存したわれわれの脳をHALに例えて、こう警告しています。
一台で孤立していた昔のPCよりも、はるかに強く、はるかに大きな影響を、ネットが自分にもたらしていることにわたしは気づき始めたのだ。
それは単に、コンピュータ・スクリーンを見つめることに時間を使いすぎているというだけの話ではない。ネットのサイトやサービスに慣れ、頼るようになるにつれ、自分の習慣や日常的行動が変わったというだけの話でもない。脳の働き方自体が変わりつつあるように思えたのだ。
ひとつのことに数分かそこらしか集中出来なくなっていることを、不安に思い始めたのはその頃だった。
最初わたしは、脳の年齢的な衰えのせいだろうと考えた。
だが気づいた。わたしの脳は単にふらふらさまよっているだけではない。
飢えていたのだ。ネットが与えてくれるのと同じだけの量を食べさせてくれと、それは要求していたーーーそして与えられれば与えられるほど、さらに空腹になるのだった。
コンピュータから離れているときも、わたしはメールをチェックしたり、リンクをクリックしたり、ググってみたりしたくてたまらなかった。接続していたかったのだ。
インターネットはわたしを、高速データ処理機械、いわば人間版HALへと変えたのだとわたしは気づいた。
以前の脳が恋しくなった。
このあと本は脳の仕組み、人類やテクノロジーの歴史、グーグルの哲学などに触れながら、展開していきます。
気になった方はぜひ手にとって見て下さい。
知的好奇心を満たしてくれる逸品です。